初優勝へ生き残りを懸けた対決は、小結高安(26=田子ノ浦)が西前頭2枚目の宝富士を上手投げで下して2敗を守った。

 1年8カ月前から行っているロープ振りなど体幹トレーニングの成果が、実りの時を迎えている。

 つかんだ上手は得意ではない左。それでも構わなかった。「相手が巻き替えに来たので、思い切って体を開いて投げました」。左から、力を込めて振る。片足でこらえる宝富士の頭を抑えて、さらに振る。2敗同士の生き残りを懸けた戦い。勝ったのは高安だった。

 互いに得意は左四つ。狙いは当然、左を差すことだった。だが、右でおっつけると「流れでそのまま差しちゃった」。形は右四つ。高安はそれでもいいと構えた。宝富士は嫌がった。その「差」が勝負を分けた。「いい気持ちで緊張感もなくやれました」と喜んだ。

 あくまで得意は左四つ。だが、左右均等に使える。14年九州で知り合ったトレーナーと、地道に積んだ鍛錬のたまものだった。場所前、香川県内での合宿後に福岡へ飛んだ。恒例のロープ振り。重さ20キロのロープを左右でつかむ。バランスボールに乗りながら腰を割り、交互に波を打たせる。1セット30秒。2分の休憩をはさみ、これを12セット行う。

 「すごくきつい。乳酸がたまって、どんどんつぶれていく。すると体はつぶれたところを補おうとするんです。最初は腕、次に肩。上半身がつぶれると、下半身でやろうとする。でも足が壊れる。最終的には体全身を使うようになる」。左右構わず全身で鍛えた力強さが、ここ一番で生きた。

 兄弟子で綱とりの稀勢の里に隠れていたが、ひそかに優勝争いの輪にいる。残る大関以上の対戦は照ノ富士戦だけ。「(優勝争いは)よく分からない。毎日、必死に頑張るだけです」。賜杯の行方は、読めない。【今村健人】