1879年にブントが、ライプチヒ大学に「心理学実験室」を開設した時、心理学は哲学からの分離を果たした。しかし、心理学が太古の昔より伝わる西洋哲学の思想的影響を受けていることは紛れもない事実であり、従って心理学が目指すべき究極の目標は「人間とは何かーー」を究明することに他ならない。
S・フロイトが創始した精神分析学もまた、この問いに対する数多の解と、それに対する更なる問いとを提示し続けてきたが、それらの多くは難解であり、とりわけ理解に苦しむ理論が「死の欲動」であろう。と言うよりは、この理論を容易に受容することを、我々の無意識が受け付けないのである。フロイト主義的な精神分析医の中にも、この「死の欲動」だけは頑なに否定する者も少なくないらしい。だが、あらゆる欲望の根底に死への願望があると考えれば、幾つかの精神疾患の事例を説明できうることもまた事実なのである。
「生」が物質としての細胞の構造化として説明できるならば、「死」とは物質の非構造化、すなわち構造の崩壊であり、この意味において、あらゆる人間は物質レベルでの散逸状態を志向するということになるが、そもそもとして「死」とは一体どのような状態のことを指すのか、という問いに関しては近代医学の諸倫理の発展を待つより他にないのだろう。
何にせよ、「死の欲動」を理解する上で「快感原則の彼岸」という論文はもっとも重要な論文のひとつである。
J・ラカンが言うように、精神分析を学ぶ者はすべて、フロイトへと還らねばならない。一心理学生として、この本はフロイト著作集の中でも特に価値深い図書であると思う。

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フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論 ペーパーバック – 1970/1/1
防衛-神経精神病,隠蔽記憶について,精神現象の二原則に関する定式 他
- 本の長さ460ページ
- 言語日本語
- 出版社人文書院
- 発売日1970/1/1
- ISBN-104409310062
- ISBN-13978-4409310069
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登録情報
- 出版社 : 人文書院 (1970/1/1)
- 発売日 : 1970/1/1
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 460ページ
- ISBN-10 : 4409310062
- ISBN-13 : 978-4409310069
- Amazon 売れ筋ランキング: - 672,773位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 55,961位文芸作品
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年6月17日に日本でレビュー済み
表現主義エッセイ作品です。
フッサール、シュペングラー、シェーンベルクの表現主義エッセイ作品と同様、大変、面白い。
フッサール、シュペングラー、シェーンベルクの表現主義エッセイ作品と同様、大変、面白い。
2013年12月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
最近本はアマゾンが主となりました。欲しい本がすぐ調べられて自宅から夜中でも注文できるから。フロイトの「悲哀とメランコリー」を探してこの本になりました。
2016年1月20日に日本でレビュー済み
学生の時に読んで、神経心理学の教授に無意識と脳の関係性について質問したことがありました。
教授は非常に真剣にお答えになっておられたような主観的印象でした。
ユングは太古の原型、
複雑系科学ではフラクタル的に縮小されて遺伝子化されるという考えがあります。
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ユングは太古の原型、
複雑系科学ではフラクタル的に縮小されて遺伝子化されるという考えがあります。
2005年4月3日に日本でレビュー済み
私は「あらゆる生命の目標は死である。遡れば、生命なきものは生命あるもの以前に存在していた」というフロイトの言葉を、5種類の反復強迫から理解しようとしました。①岸田秀氏が言うように、人間は本能が壊れているので、人間関係における行動パターンはどのようにも捏造することができます。この型が最初の親子関係によって固められると、それ以後、あらゆる人間関係において反復強迫されることになります。②外傷性神経症の患者が、経験した恐ろしい災害の場面を繰り返し夢に見る反復強迫の場合です。快感原則から言えば当然、回避するはずの過去の苦痛な経験を反復するのは、自我から排除されてしまう苦痛な経験を能動的に自我に組み入れ克服しようという試みです。③懲罰者と自己の役割を逆転させる場合です。迫害された屈辱を他の場面で自己を懲罰者と同一視し、スケープゴートに復讐することにより、苦痛な屈辱経験を克服しようとする反復強迫です。アンナ・フロイトはここにこそ動物には存在しない人間特有の復讐衝動の起源があると言っています。④屈辱経験を克服するなどの目的があってのことではなく、反復することそれ自体が快感であるが故に反復されるというものです。反復それ自体に快感があるのは、自分の住んでいる世界が変わりなく同じであることが確認され、自我に安定がもたらされるからです。⑤何かの目的があって反復されるのでもなく、反復が快感であるから反復されるのでもなく、人間の深奥にある反復の本質的な衝動です。この何の理由もなく、人間という生命体は反復してしまうというオートマチックな原理こそ、フロイトの死の衝動の仮説だろうと思うのです。「衝動とは、以前の状態を(生命なき状態を)復元しようとする、生命体に内在する強制力である」とフロイトは言っています。この衝動はあらゆる生命に当てはまるものではなく、人間に特有なものです。人間は過去において完全な満足の状態があったとの幻想を持っていて(乳幼児→母胎→エデンの園)、そこに回帰しようとするがために過去を復元しようとするのです。快感原則の彼岸とはこのような生命の彼岸に屹立する人間に内在するあらがうことのできない強制力の世界のことでしょう。
2002年10月8日に日本でレビュー済み
メタサイコロジーに関する論文が収められている。しかし「想起、反復、徹底操作」だけは臨床にかんする論文で、小此木さんはこれを一刻でも早く訳して載せたいがためにここに収録したらしい。
この巻はフロイト理論の中心なので、とにかくこれをひととおり読まないことにはフロイト理解はおぼつかない。とはいえ、これはある程度フロイトによる理論が発展した段階で一気に書かれたものなので、それまでの議論の流れを押さえておかないとなんだか抽象的なことばかり言っているなあとも思いかねない。だが注意深く読めば、フロイトはかなり筋の通った緻密な議論をしていることがわかるだろう。
「防衛神経精神病」など初期の神経論的見地による理論的論文なども収録されているが、中心は「欲動とその顊??塑」や「無意識について」についてなど、一次大戦中にフロイトが自分の理論をまとめた「メタサイコロジー論」と呼ばれる論文である。「喪(悲哀)とメランコリー」などそれら理論に重大な変更を加えた重要な論文がそれに続き、さらには「快感原則の彼岸」「集団心理学と自我の分析」「自我とエス」などフロイト理論の根本的な転換となった致命的に重要な論文が中心を占め、「マジック・メモ」「否定」など、極度に凝縮された難解な、のちにクラインやラカンやデリダによって解読されるのを待つ晩年の論文があり、エス抵抗を論じた「制止、症状、不安」、そして「終わりある分析と終わりなき分析」などなど、どれ一つとして見逃せる論文はない。
ここで述べられていることはすべて現代の思想に恐るべき衝撃を与えた精神分析の中心である。そしていまわれわれが読んでも新鮮で、確かにわれわれの思考を根底から揺さぶる力を秘めている。
この巻はフロイト理論の中心なので、とにかくこれをひととおり読まないことにはフロイト理解はおぼつかない。とはいえ、これはある程度フロイトによる理論が発展した段階で一気に書かれたものなので、それまでの議論の流れを押さえておかないとなんだか抽象的なことばかり言っているなあとも思いかねない。だが注意深く読めば、フロイトはかなり筋の通った緻密な議論をしていることがわかるだろう。
「防衛神経精神病」など初期の神経論的見地による理論的論文なども収録されているが、中心は「欲動とその顊??塑」や「無意識について」についてなど、一次大戦中にフロイトが自分の理論をまとめた「メタサイコロジー論」と呼ばれる論文である。「喪(悲哀)とメランコリー」などそれら理論に重大な変更を加えた重要な論文がそれに続き、さらには「快感原則の彼岸」「集団心理学と自我の分析」「自我とエス」などフロイト理論の根本的な転換となった致命的に重要な論文が中心を占め、「マジック・メモ」「否定」など、極度に凝縮された難解な、のちにクラインやラカンやデリダによって解読されるのを待つ晩年の論文があり、エス抵抗を論じた「制止、症状、不安」、そして「終わりある分析と終わりなき分析」などなど、どれ一つとして見逃せる論文はない。
ここで述べられていることはすべて現代の思想に恐るべき衝撃を与えた精神分析の中心である。そしていまわれわれが読んでも新鮮で、確かにわれわれの思考を根底から揺さぶる力を秘めている。