アート

世界で最も高価な色、金より貴重な顔料「ウルトラマリン」の歴史

by Boris Mann

「海を越えた」という意味の「ウルトラマリン」は金よりも高価な色として芸術家に重宝されたり、芸術家の家族を貧乏のどん底に追いやったりしてきました。ウルトラマリンとは一体何なのか?ということで、その歴史がParis Reviewにまとめられています。

A Brief History of Ultramarine—The World’s Costliest Color
http://www.theparisreview.org/blog/2015/06/08/true-blue/

画家ミケランジェロの初期の作品「キリストの埋葬」は未完のままこの世に残っていますが、キリストの埋葬が未完なのは、絵を描く上で使うウルトラマリンの顔料をミケランジェロが手に入れられなかったからだと言われています。一方で、ラファエロはウルトラマリンの顔料を絵の仕上げに使い、フェルメールはふんだんにウルトラマリンの顔料を使ったが故に家族を借金の泥沼に陥れていました。


数々の芸術家に愛され、「海を越えた色」という名を持つ「ウルトラマリン」の原料は宝石の一種であるラピスラズリです。ラピスラズリは何世紀もの間、アフガニスタン北部の山脈にある乾燥地帯でのみ採掘されており、金よりも貴重だと考えられてきました。ラピスラズリは海路でヨーロッパまで運ばれてきたため「海を越えた色」と呼ばれたわけです。

ラピスラズリをウルトラマリンの顔料にするにはまず石を細かい砂状に砕き、解かしたワックス・油・松ヤニなどと混ぜます。できた塊をうすい灰汁の中でこねると粒子が容器の底に沈んでいき、最終的には青い粒子を含んだ透明な抽出物が完成するわけです。


宝石を原料とするウルトラマリンはあまりにも高価なため、通常はキリストかマグダラのマリアの着ている衣服を描く際にしか使われていませんでした。また、当時の画家は絵画にかかる費用をパトロンに負担させていましたが、人によってはウルトラマリンの代わりにインディゴスマルトの顔料を使い、ウルトラマリンを買うためのお金を着服していた人もいたそうです。

上記のような状況を見かねて、1824年、フランスの工業奨励協会は「ウルトラマリンの代わりになる顔料を開発した人に6000フランを与える」と発表。数週間後、フランスの薬剤師であるジャン=バプティステ・ギメ氏とドイツ人研究者のクリスティアン・グメリン氏が別々に合成ウルトラマリンを開発したと名乗り出ました。グメリン氏は「1年前に既に合成ウルトラマリンを開発していましたが、論文が発行されるまで発表を控えていた」と主張し、ギメ氏も「2年前に既に開発していたが公表していなかっただけ」と主張したため、賞金をめぐって大きな争いが起こりましたが、結局、ギメ氏が作り方を公表しなかったため、グメリン氏が合成ウルトラマリンの創始者として認められ、賞金を得たとのこと。

by Orbital Joe

現在、合成ウルトラマリンは他の顔料と同じような値段で販売されていますが、やはり微妙に色合いが違うため、「天然のウルトラマリンを手に入れられるならば自分の耳を切ってもいい」と言う画家は多くいます。

一方で、合成ウルトラマリンには鉱物が含まれていないゆえに、天然ウルトラマリンよりも豊かな色合いだという声もあります。20世紀のアメリカ画家であるアンドリュー・ワイエスは天然ウルトラマリンについて「色が純粋すぎます。現代の影や色合いに使うと、その純粋さゆえにぞっとするような印象になってしまう」「旧式の青には黄色が混ざっており、現代の色とは調和しない」と語っています。手で細かく丁寧に砕かれた天然ウルトラマリンであっても、方解石黄鉄鉱普通輝石雲母などが混ざっており、光を反射したり透過させたりします。そのため、さまざまなストロークで描かれた絵は、見る角度によって青が白や金色に見えてしまうそうです。

小説家のウィリアム・H・ギャス氏は「On Being Blue」という本の中で「青は古代から色んな場所に存在しました。氷や水、炎、洞窟、花、果物、そして魂」と語っています。古代エジプトの書籍では、真ん中に金が埋め込まれ目の形に彫られたラピスラズリが魔除けとして扱われており、クレオパトラがラピスラズリの粉でアイシャドーを施していたことからも、青がいかに神聖な色として扱われていたかが分かります。


ある色彩鑑定家は「青が深くなると人は『無限』の感覚が呼び起こされ、純粋で超自然的なものへの欲求に気づきます」と語りますが、現代になっても空の青を瓶に詰め込むことができず、炎の青に触れることもできない人間にとって、青は神聖な色として存在し続けるのです。

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in アート, Posted by darkhorse_log

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