東洲斎写楽検証の暫定(2012年時点)決定版。
同時代から現代にいたるまで、現在のところ判明している、あらゆる写楽史料を総点検。膨大な史料の成り立ちから情報の信憑性までを論じた上での、微に入り細を穿つような徹底検証はただただ頭が下がるばかり。歴史の真実とはこうした地道な労力によって再現されていくものなのです。
何せ基本姿勢は、史料にないものは相手にせず! というもの。お約束の「世界三大肖像画家(レンブラント、ベラスケス、写楽)はクルトが選んだ」という通説はたった一ページで蹴散らされてしまいました(笑)。なお本書では「レンブラント、ベラスケス、写楽」は日本の仲田勝之助が始めたのだと紹介されていますが、本書の刊行から五年が経って、現在の研究ではいったいどうなっているのでしょうか?
本書では東洲斎写楽の正体そのものは阿波藩士斎藤十郎兵衛説を支持していますが、たんに従来の通説をなぞるばかりではなく、現存作品の図版を検討することで、幕末明治になってからの複製や贋作がかなり混じっていると結論づけるなど、いままでの写楽論議の前提を片っ端から叩き潰してまわるような検証は実にスリリング。
欧米における浮世絵の受容、そして、需要に応えるための贋作の氾濫といった話題はとても参考になりました。
難をいえば図版がまったくない(!)ことでして、お手元にありったけ、画集を参照しながらお読みすることをオススメいたします。冒頭160ぺージ、写楽全作品の総点検が文章だけで続くんだから!
それにしても写楽の謎(?)に関心を持つ人はけっこう多いはずなのに、これほどの労作がその刊行から五年余りの間、amazonページにレビューをつけた人もなく、ネット上でもほとんど書評が見つからないというのはどうしたことなのでしょう?
五百ページ近くにわたって煩雑な検証や地道な解説が続くこと、五千円以上の定価のために敬遠してしまって手を出さないでいるのでしたら、それはたいへんな了見違いなのでは。まともでお堅い研究が埋もれてしまい、ツッコミどころだらけのバカみたいなトンデモ解釈の方が本がよく売れ、支持者が集まるというのは異常ではありませんか。写楽の正体が誰なのかといった突飛な珍説に十冊手をつけるより、同じお金と時間をこうしたまともな研究書に支払いましょうよ。その方がよほど歴史の真実に貢献できるというもの。
素人の検証ごっこでなく本当の意味で写楽の実態に関心をお持ちなら、一人一冊、手元に置いておくべき必携書であります。

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〈東洲斎写楽〉考証 単行本 – 2012/9/1
中嶋 修
(著)
- 本の長さ494ページ
- 言語日本語
- 出版社彩流社
- 発売日2012/9/1
- 寸法16.1 x 3.3 x 21.8 cm
- ISBN-104779118069
- ISBN-13978-4779118067
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登録情報
- 出版社 : 彩流社 (2012/9/1)
- 発売日 : 2012/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 494ページ
- ISBN-10 : 4779118069
- ISBN-13 : 978-4779118067
- 寸法 : 16.1 x 3.3 x 21.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,150,937位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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