本書は著者のトマス研究の中で最も手に取りやすいトマス哲学入門である。著者の仕事には硬質な『トマス・アクィナス哲学の研究』や『トマス・アクィナス倫理学の研究』といったトマスの名を冠した研究のみならず、主著である『習慣の哲学』や現代の人格論の再考を促す『人格の哲学』といったトマスの根本思想を掘り下げる著書の数々が中世研究の棚の一角を占めている。著者による一般向けのトマス紹介には既にそれぞれに特色のある、伝記に特化した清水書院のものと、現代における思想性に力点を置く勁草書房のものと、全著作の紹介に重点を置く講談社学術文庫のものとがある。本書はそのテクストの成立からもうかがえるように、著者の長年のトマス研究の成果をもとに修道院のシスターへ向けた入門的な内容を纏めたものであるため、その時の質疑応答をも背景とした対話型の紹介になり得ている点で他書とは一線を画す。とはいえ、トマス思想を現代への挑戦と捉えることにおいては勁草書房の思想紹介と地続きのものと言えるかもしれない。
本文において印象的に述べられているように、本書は『神学大全』を一冊の書物として現代への挑戦の書として読むことに特徴がある。その具体的な議論は本書を実際に紐解いてもらうほかないのだが、現代のものの見方ないし存在論の陥穽を明らかにすると同時にトマス形而上学の蔵する豊かさを提示するものとなっているのである。具体的に言えば、存在の秩序において神の働きをどこに見出すかということにおいて、私たちが自明としがちな存在観の一面性を明らかにし、キリスト教的創造論・被造観を鮮やかに描き出しているのである。ともすれば私たちは物事を明確に切り分けて理解することを是とするかもしれない。しかしトマスが提示する創造論は私たちの自然本性が如何なるものであるのか、どのような意味で自然法に従うものであるのかを問いかけてくるのである。有名な神の存在証明の詳細の紹介から始まり、その創造論を通して検討されていく問題群はトマスの自然本性理解を部分ではなく全体として理解させてくれる内容となっている。次々に検討されていく問題は著者が長年にわたる研究の精髄とも言いうる内容を携えており人格論、自然法論、共同体論の骨子を読者は得ることができる、贅沢な一冊でもある。
個別具体的な問題もさながら、本書の基調を成しているのはトマスの創造観である。創造論の理解抜きにキリスト教思想を理解することの難しさを本書は明らかにしていると言える。しかし同時にそれは、被造ということの視座に立ち得た時にキリスト教が言わんとすることが理解できる可能性を示唆しているのである。本書は私たちが自明視する価値観に揺さぶりをかける、まさに挑戦的な『神学大全』入門と言えよう。
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トマス・アクィナス 『神学大全』 (講談社選書メチエ) 単行本(ソフトカバー) – 2009/11/11
稲垣 良典
(著)
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神とは何か。創造とは、悪とは、そして人間の幸福とは? キリスト教の根源にトマスは深い洞察で答える。斯界の第一人者が『神学大全(スンマ)』をアクチュアルな挑戦の書として読み直す。(講談社選書メチエ)
- 本の長さ204ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2009/11/11
- ISBN-104062584549
- ISBN-13978-4062584548
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2009/11/11)
- 発売日 : 2009/11/11
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 204ページ
- ISBN-10 : 4062584549
- ISBN-13 : 978-4062584548
- Amazon 売れ筋ランキング: - 876,142位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 979位講談社選書メチエ
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年1月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本は『神学大全』のエッセンスをトマスのものの見方にこだわって凝縮して伝えられている。
”人間本性を原動力とする知的探求は、人間知性が、知りたいという本性的な欲求を完全に満たしてくれるような対象と出会うところまでおし進められなければならないのであって、そのような対象が「万人が神と呼ぶ」存在にほかならない。”
そして「すなわち神が人間の究極目的である幸福にほかならない」という。
うーん。思っていた一神教と違うかもと思っていたら、なんか親鸞聖人のものの見方とにているのだよね。「神についての認識は否定を通じてのみ可能である」とか「三身一体というの一は、多の否定としての一である」とかね。空とか不一不二を想起するのだ。近い、近いぞ。トマスがすごく深い思考、突き詰めた思考をしているのだなということを感じる。時や場所が違っても、人間が行うことは近いのだろうか。
正直に言うと、法(ルールの意)が出てきた後半の所は読んではいるけど理解が出来ていると思っていない。自分が理解した以上の難しいことをいっているということはわかる。
本当に興味を持ったら原典に当たりたくなるというような解説本だと思う。道元、親鸞に近いものがあると著者の方も書いていらっしゃるのでやっぱり!という感じ。
”人間本性を原動力とする知的探求は、人間知性が、知りたいという本性的な欲求を完全に満たしてくれるような対象と出会うところまでおし進められなければならないのであって、そのような対象が「万人が神と呼ぶ」存在にほかならない。”
そして「すなわち神が人間の究極目的である幸福にほかならない」という。
うーん。思っていた一神教と違うかもと思っていたら、なんか親鸞聖人のものの見方とにているのだよね。「神についての認識は否定を通じてのみ可能である」とか「三身一体というの一は、多の否定としての一である」とかね。空とか不一不二を想起するのだ。近い、近いぞ。トマスがすごく深い思考、突き詰めた思考をしているのだなということを感じる。時や場所が違っても、人間が行うことは近いのだろうか。
正直に言うと、法(ルールの意)が出てきた後半の所は読んではいるけど理解が出来ていると思っていない。自分が理解した以上の難しいことをいっているということはわかる。
本当に興味を持ったら原典に当たりたくなるというような解説本だと思う。道元、親鸞に近いものがあると著者の方も書いていらっしゃるのでやっぱり!という感じ。
2020年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
難しかったが、アリストテレスの影響を受けていることは理解できた
2021年6月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
トマスの著作ではないです
2016年9月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者によれば、『神学大全』は、神に関する事柄を人間理性で探求することは不可能で無用だと確信していた人々への「挑戦の書」であり、現代人へ挑戦の書としても理解できる(第1章)。
第2章以降(第7章を除く)を章ごとにまとめると次のようになる。②トマスによる「神の存在証明」は、厳密な意味には神の存在を決定的に証明しようとするものではなかった。③トマスの三位一体論は、神の善性への啓示的信仰に基づいていた。④トマスの考える神の創造とは、宇宙論的ではなく、神・子・聖霊を通じて行われる救済史の観点から理解されるべきである。⑤トマスの考えでは、悪の原因は、否定ないし無にあり、それを神に見出すことは無意味であって、悪の本質は、神の恩寵という善に基づいてはじめて理解できる。⑥人間の究極目標は、その本性(徳)の実現であり、これが幸福(現世では十分には到達しえないにせよ)である。
以上のようなトマス解釈が妥当であるかは不明(決定的な根拠となる部分の説明があっさり)だが、それなりに理解できたと思う。しかし、何度も繰り返される現代への「挑戦」の意味は判然としない。結局のところ、『神学大全』の意義は、トマスが深く突き詰めて考えたのであるから、現代人もそうした知的探求を深めねばならないという平板な主張のようにも見える。特に、トマスが最終的にはつねに信仰に基づいていたという解釈からは、信仰を共有しない人々にとって『大全』がどのような意義を持つかはよくわからなかった。
第2章以降(第7章を除く)を章ごとにまとめると次のようになる。②トマスによる「神の存在証明」は、厳密な意味には神の存在を決定的に証明しようとするものではなかった。③トマスの三位一体論は、神の善性への啓示的信仰に基づいていた。④トマスの考える神の創造とは、宇宙論的ではなく、神・子・聖霊を通じて行われる救済史の観点から理解されるべきである。⑤トマスの考えでは、悪の原因は、否定ないし無にあり、それを神に見出すことは無意味であって、悪の本質は、神の恩寵という善に基づいてはじめて理解できる。⑥人間の究極目標は、その本性(徳)の実現であり、これが幸福(現世では十分には到達しえないにせよ)である。
以上のようなトマス解釈が妥当であるかは不明(決定的な根拠となる部分の説明があっさり)だが、それなりに理解できたと思う。しかし、何度も繰り返される現代への「挑戦」の意味は判然としない。結局のところ、『神学大全』の意義は、トマスが深く突き詰めて考えたのであるから、現代人もそうした知的探求を深めねばならないという平板な主張のようにも見える。特に、トマスが最終的にはつねに信仰に基づいていたという解釈からは、信仰を共有しない人々にとって『大全』がどのような意義を持つかはよくわからなかった。
2023年5月12日に日本でレビュー済み
ラッセルの大著「西洋哲学史」において トマスの理論は「名声を得るに値しない」として、「理性への言及が不十分であり、結論が先取りされている」という手痛い批判を浴びているのは周知の事実である。
思うに、そろそろ現代の文明人は「創造主・全能の神」の桎梏から逃れてはどうであろうか。
「人間が神仏を創ったのであって、神仏が人間を創ったわけではないのである。」
・・・最新の脳科学の進歩を踏まえたスタンフォード大学E・フラー・トリー
「神は、脳がつくった」 ダイヤモンド社2018 より
思うに、そろそろ現代の文明人は「創造主・全能の神」の桎梏から逃れてはどうであろうか。
「人間が神仏を創ったのであって、神仏が人間を創ったわけではないのである。」
・・・最新の脳科学の進歩を踏まえたスタンフォード大学E・フラー・トリー
「神は、脳がつくった」 ダイヤモンド社2018 より
2020年12月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とても読みやすくまとめられている。
ただ、これで膨大な大著を「わかった気」には
とてもなれないのも確かだ。
ただ、これで膨大な大著を「わかった気」には
とてもなれないのも確かだ。
2020年5月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
わずか205ページの文庫で、「神学大全」がわかるわけではない。トマス・アクィナスの主張ではなく、あくまで稲垣先生の所感。これは、あくまで稲垣先生のエッセイだと私は感じた。