『創世記』第一章から三章の世界創造譚に対する、注釈本である。プラトンのイデア論と、ピュタゴラス派の数論で理論武装してある。ストア派の影響も混じっているという。フィロンは紀元後40年頃のユダヤ人だから、キリスト教からの影響は、基本的にはないらしい。後の教父からは好意的に解釈されているのだそうだ。
イデア論としては、可知的で不滅のイデアから、可感的で死すべき似像が創造されたと解釈する。いわゆる二段階創造論である。例えば、「自分の像に」「似せて」創造したイデアとしての人間と(創1:26-27)、「大地の塵をもって」形造った物質界の人間(創2:7)を、区別する。もちろん、「写しは原像よりも劣っており、さらに写しから描かれたり造形されたりしたものは、原像からはるかに隔たっているだけに、いっそう甚だしく劣っている」。だから、物事は、後になるほど悪くなる。例えば、「初めは無垢で純真な状態にあった者たちが、後になると徳にかわって悪徳を重んじる者たちの生活を送るようになった」、と言う。幾世代を経たはずのモーセが賢者だったのは、別格だったのだろうか。
数論としては、数字一つ一つにピュタゴラス派的なアレゴリーを与えている。四、六、七、一〇が完全数であるという。
しかもフィロンは、プラトンをはじめとするヘレニズム期の著作や聖書を、暗誦していた可能性が指摘されている。これは、現存する『ティマイオス』や聖書と異なる文章が引用されていることの説明にもなる。
訳者の注解も与えられている。64頁の本文に対して、373個。屋上屋を重ねるとは言うものの、これまた密度が濃い。非常に為になる。翻訳もこなれて読みやすい。暇と興味のある人は、是非とも読んで欲しい一冊である。
But、これ一冊で4800円は、ちと高い。『フィロン全集』なんて組んだら、いくらするんだろう。

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世界の創造 (ユダヤ古典叢書) 単行本 – 2007/8/1
天地の創造から最初の人間の堕落まで、ギリシア哲学を自在に援用しながら、創世記を独自に解釈。キリスト教教父の聖書解釈にも決定的な影響を与えたフィロンの代表作のひとつ。
- 本の長さ160ページ
- 言語日本語
- 出版社教文館
- 発売日2007/8/1
- ISBN-10476421928X
- ISBN-13978-4764219281
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登録情報
- 出版社 : 教文館 (2007/8/1)
- 発売日 : 2007/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 160ページ
- ISBN-10 : 476421928X
- ISBN-13 : 978-4764219281
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,384,833位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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