八雲の再話作品53篇を収載し、妻・節子の「思い出の記」をあわせて載せている。この手記が八雲の人間性と執筆の様子をよく伝えている。
第1章は日本以外の文化圏に伝えられた伝説・神話からとった再話。
ポリネシア伝説「泉の乙女」がダントツに美しいが、イヌイット神話「鳥妻」が「雪女」に似た感覚でとてもいい。
第2章からは日本の伝説民話の再話で、どれも面白いが、ホラー系、物の怪系の魅力は格別。
ホラー系では「小豆磨ぎ橋」「水飴を買う女」「子捨ての話」「幽霊滝の伝説」が素晴らしい。ごく短くシンプルで残酷。唐突な感覚がいかにも日本的。超有名な「雪女」は舞台が武蔵国と気づいて驚いた。
数ある話の中で傑作だと思ったのは「むじな」「茶わんの中」「耳なし芳一」「果心居士の話」「僧興義の話」「おしどり」「伊藤則資の話」「死体にまたがった男」など。なかでも「茶わんの中」の不条理な感覚は素晴らしい。
八雲は「茶わんの中」の冒頭で、《 切り立った海沿いの道を歩いていて、角を曲がったとたん、目の前に現れたのは、断崖絶壁のそそり立つ行き止まり、といったようなことはなかったでしょうか。・・・不思議なことに、日本の昔話の中に同じような感情を起こさせる未完の話がいくつかあります 》と私見を書いている。
未完と八雲は言うが、始まりもまた唐突なことが多く(「茶わんの中」がまさにそうだ)、因果を無視した不思議と恐怖、それが江戸時代の怪異譚の特徴ではないだろうか。
妻・節子が八雲との生活を回想した「思い出の記」は50頁強あり、かなり長いが、非常に面白い。八雲が再話文学をどのように書いたかがわかる(その姿には鬼気迫るものがある)。
異邦の孤独な外国人、繊細すぎる神経を持ったハーン、ということを考えると哀しくなるが、彼がたまたま日本に来て節子と出会ったという二重の偶然は、我々にとって大変な幸運というべきだろう。
日本びいきとか日本文化を愛した外人と簡単にいうが、八雲はそんな次元を遙かに越えている。彼の感性は日本の核心に一気に達し、それを把握した(それは日本人にとっても難しいことだ)。だから八雲の書いたものは我々の心を揺さぶり、いつまでも古びない。本書の作品はそのことをよく示していると思う。我々は感謝するのみだ。

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妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション (ちくま文庫) 文庫 – 2004/8/10
ラフカディオ・ハーン
(著),
池田 雅之
(翻訳)
泉の乙女,鳥妻,最初の音楽家,愛の伝説,天女バカワリ,大鐘の霊 他
- 本の長さ547ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2004/8/10
- ISBN-104480039929
- ISBN-13978-4480039927
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2004/8/10)
- 発売日 : 2004/8/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 547ページ
- ISBN-10 : 4480039929
- ISBN-13 : 978-4480039927
- Amazon 売れ筋ランキング: - 656,590位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 356位個人全集の全集・選書
- - 2,484位ちくま文庫
- - 8,970位英米文学
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上位レビュー、対象国: 日本
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2013年8月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本は、他社では『怪談』として出版されているものに、さらに数編の摩訶不思議な話を収録している。翻訳も読みやすくいい。私は他社の『怪談』本を数冊所有しているのだが、この本には、全集や小泉八雲集でしか読めない、妻節子の「思い出の記」を収録しているので購入した。人間小泉八雲を知る上で、貴重な文献でもあり、また面白い。
『怪談』は、怪奇幻想小説の中でも傑作であり、蒸し暑い夜に読むのがいいかもしれない、まだ間に合うと思う。
『怪談』は、怪奇幻想小説の中でも傑作であり、蒸し暑い夜に読むのがいいかもしれない、まだ間に合うと思う。
2016年7月23日に日本でレビュー済み
小泉八雲の『怪談』の現代語訳ですが、
作者の文学的素養か、文章力か、とても読みやすい。
『怪談』のすべてではないようなので、残りもこの作者の訳で読みたいです。
自信をもって、おすすめできます。
作者の文学的素養か、文章力か、とても読みやすい。
『怪談』のすべてではないようなので、残りもこの作者の訳で読みたいです。
自信をもって、おすすめできます。
2008年2月1日に日本でレビュー済み
これまでにハーンの本は(特に『怪談』は)幾つもの邦訳が出て来たし、既に定評のある味わい深い名訳もあるのに、また新訳かと思って読んでみたのだが、最初の一篇を読み終える頃には、それまでの他の訳のことなど頭から綺麗に吹き飛んでしまった。とにかく訳がうつくしい。「美しい」ではなく「うつくしい」と書きたくなる程うつくしい。基本的にですます調で、著者が読者にやさしく語り掛ける様な文体を採っているのだが、これがまたえもいわれぬ独特の雰囲気を作り出している。単に文章を置き換えるのではなく、そこで新たな作品へと深化させてくれる翻訳と云うものは本当に稀なものだが、本書は間違い無くそうしたタイプの名訳だと言える。
収録作品の選定も実にいい。ハーンの再話文学が『怪談』でひとつの頂点を成すのは確かだとしても、それに至るまでの、負けず劣らず素晴らしい昔話の数々は得てして文庫本等では軽視されがちなものである。本書ではテーマ別に分けて比較的広い年代の作品を集めて来ているのだが、ハーンの、人と世界の向こうに永遠を見る眼差しが素直によく解る構成になっている。ポリネシア、フィンランド、中国、インド等々、ハーンが再編した世界各地の神話伝説と云う、恐らくは一般の読者は知らないであろうジャンルが手軽に読める様になったのも実に嬉しい。ハーンの文学が『聊斎志異』や『千一夜物語』に匹敵する業績だと云うことが、本書を読めば実感出来るだろう。
収録作品の選定も実にいい。ハーンの再話文学が『怪談』でひとつの頂点を成すのは確かだとしても、それに至るまでの、負けず劣らず素晴らしい昔話の数々は得てして文庫本等では軽視されがちなものである。本書ではテーマ別に分けて比較的広い年代の作品を集めて来ているのだが、ハーンの、人と世界の向こうに永遠を見る眼差しが素直によく解る構成になっている。ポリネシア、フィンランド、中国、インド等々、ハーンが再編した世界各地の神話伝説と云う、恐らくは一般の読者は知らないであろうジャンルが手軽に読める様になったのも実に嬉しい。ハーンの文学が『聊斎志異』や『千一夜物語』に匹敵する業績だと云うことが、本書を読めば実感出来るだろう。
2013年8月9日に日本でレビュー済み
本書には、1泉の乙女、2島妻、3最初の音楽家、4愛の伝説、5天女バカウリ、6大鐘の霊、7孟沂の話、8織女の伝説、9顔真卿の帰還、10ちんちん小袴、11団子をなくしたおばあさん、12化け蜘蛛、13猫を描いた少年、14若がえりの泉、15小豆磨ぎ橋、16水飴を買う女、17子捨ての話、18鳥取の布団の話、19帰ってきた使者、20天の川叙情、21おしどり、22お貞のはなし、23雪女、24青柳ものがたり、25弁天の感応、26和解、27葬られた秘密、28振り袖伝説、29因果話、30破られた約束、31衝立の娘、32倩女の話、33むじな、34茶わんの中、35かけひき、36耳無し芳一、37幽霊滝の伝説、38ろくろ首、39食人鬼、40死体にまたがった男、41果心居士の話、42僧興義の話、43普賢菩薩の伝説、44常識、45天狗の話、46菊花の契り、47蓬莱、48浦島伝説、49安芸之介の夢、50鮫人の恩返し、51忠五郎の話、52伊藤則資の話、53牡丹燈籠、以上53の話が収められてます。そして、さらに八雲の妻節子の「思い出の記」(52頁分)と「小泉八雲年譜」(9頁分)と編訳者池田雅之の「解説自伝としての再話文学」(12頁分)が続きます。
まず有名な「耳無し芳一」の部分を比べてみます。「妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション」ちくま文庫では、「数何百年か前、赤間関に芳一という名の盲が住んでおりました。芳一は、琵琶を奏でながら吟じるのが巧みなことで知られていました。幼い頃から、琵琶の弾き語りを学び、少年の頃には、早くも師匠たちを凌ぐ腕前になっていました。本職の琵琶法師となってからは、なによりも源平の物語を吟じることで名を馳せるようになりました。ことに、壇の浦の合戦の段を語るときには、『鬼神も涙を流さずにいられぬ』と言われるほどでした。」となってますが。
「怪談・奇談」講談社学術文庫 怪談・奇談 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集) では、「何百年か前に赤間関には芳一という名の盲人が住んでいた。琵琶を弾いて語るのが上手なことで名が知られた。幼い時から芸を仕込まれていたので、まだ若者のうちに師匠たちを凌駕してしまったのだという。琵琶法師として身を立てたが、源平の物語を語るのがとくに上手で、芳一が壇ノ浦の戦さの段を語る様子は、『鬼神ヲモ泣カシム』といわれたほどである。」となってます。
「小泉八雲集」新潮文庫 小泉八雲集 (新潮文庫) では、「数百年前、この赤間が関に、芳一という盲人が住んでいた。この男は、琵琶の弾きがたりで名を知られていた。幼時から、琵琶を教え込まれたのである。そして、まだ子供のうちから、すでに師をしのいでいた。本職の琵琶法師として彼は、おもに平家と源氏の物語をかたることで有名になった。そして、壇ノ浦の合戦の段をかたらせると、『鬼神も涙をとどめえなかった』といわれている。」となってます。
本書ちくま文庫は、他の二つの訳文と大きく異なって、日本語で昔話を語るような語り口となっているのが特徴です。
そして、本書巻末に「本書はちくま文庫のためのオリジナル編集です。」とあるように、独自に命名された章に分割され、外国の話が含まれているのが本書の特徴です。9番目の顔真卿の帰還までを「第一章・愛の伝説」とし、20番目の天の川叙情までを「第二章・若返りの泉」とし、32番目の倩女の話までを「第三章・永遠の女性」とし、46番目の菊花の契りまでを「第四章・妖怪たちの隠れ里」とし、53番目の牡丹燈籠までを「第五章・蓬莱幻想」としています。
第一章の1番目は南洋諸島の話で、2番目と3番目は北洋、4番目は中近東、5番目はインド、6番目と7番目と8番目と9番目は中国の話です。跳んで第三章の32番目の「倩女の話」も中国の話です。「倩女の話」を除き第二章から第五章は日本の話です。第二章は日本の昔話でしょうか。18番目の話の「『あにさん、寒かろう』『おまえ、寒かろう』」は耳に残ります。第三章から第五章までは、「怪談・奇談」講談社学術文庫と同じ話が多いです。
第三章の28番目の「振り袖伝説」は他の書では「振袖」と題され、第4章の35番目の「かけひき」は他の書では「策略」と題され、42番目の「僧興義の話」は「夢応の鯉魚」と題され、46番目の「菊花の契り」は「菊花の約」とか「守られた約束」と題され、第5章の53番目の「牡丹燈籠」は「宿世の恋」とか「悪因縁」と題されてました。
他の二つの書になく本書ちくま文庫だけに掲載されていたのは、第一章と第二章の1番目から20番目の20の話、前述した第三章の32番目の話、そして第五章の47番目と48番目の話でした。そして八雲の妻節子の「思い出の記」も本書だけに掲載されており、内容は特筆すべきものです。残念ながら説明が本書でなく「怪談・奇談」講談社学術文庫の巻末解説328頁にありました。「『思ひ出の記』は、節子夫人が口頭で語ったことを、彼女の従兄弟で、後に古文書の調査資料を数多くハーンに提供、協力した光成という人が筆記したものだといわれるが、」ということです。この「思い出の記」を読むと、八雲の人となり妻の想いがわかりとても興味深い。『この痛みも、もう大きいの、参りますならば、多分私、死にましょう。そのあとで、私死にますとも、泣く、決していけません。』そして「小泉八雲年譜」と合わせ読むと、著者八雲は五十四歳に狭心症で亡くなっています。日本人の妻節子との間に設けた四人の子(12歳の長男を筆頭に、7歳の次男、5歳の三男そして父が亡くなった前年に生まれた長女)はその後どうやって過ごしたのだろうと気にかかって仕方がありません。「小泉八雲集」新潮文庫の年譜によれば妻節子は28年後に亡くなったそうです。「思い出の記」を読まなければこういった感想は起こらなかったはずです。
まず有名な「耳無し芳一」の部分を比べてみます。「妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション」ちくま文庫では、「数何百年か前、赤間関に芳一という名の盲が住んでおりました。芳一は、琵琶を奏でながら吟じるのが巧みなことで知られていました。幼い頃から、琵琶の弾き語りを学び、少年の頃には、早くも師匠たちを凌ぐ腕前になっていました。本職の琵琶法師となってからは、なによりも源平の物語を吟じることで名を馳せるようになりました。ことに、壇の浦の合戦の段を語るときには、『鬼神も涙を流さずにいられぬ』と言われるほどでした。」となってますが。
「怪談・奇談」講談社学術文庫 怪談・奇談 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集) では、「何百年か前に赤間関には芳一という名の盲人が住んでいた。琵琶を弾いて語るのが上手なことで名が知られた。幼い時から芸を仕込まれていたので、まだ若者のうちに師匠たちを凌駕してしまったのだという。琵琶法師として身を立てたが、源平の物語を語るのがとくに上手で、芳一が壇ノ浦の戦さの段を語る様子は、『鬼神ヲモ泣カシム』といわれたほどである。」となってます。
「小泉八雲集」新潮文庫 小泉八雲集 (新潮文庫) では、「数百年前、この赤間が関に、芳一という盲人が住んでいた。この男は、琵琶の弾きがたりで名を知られていた。幼時から、琵琶を教え込まれたのである。そして、まだ子供のうちから、すでに師をしのいでいた。本職の琵琶法師として彼は、おもに平家と源氏の物語をかたることで有名になった。そして、壇ノ浦の合戦の段をかたらせると、『鬼神も涙をとどめえなかった』といわれている。」となってます。
本書ちくま文庫は、他の二つの訳文と大きく異なって、日本語で昔話を語るような語り口となっているのが特徴です。
そして、本書巻末に「本書はちくま文庫のためのオリジナル編集です。」とあるように、独自に命名された章に分割され、外国の話が含まれているのが本書の特徴です。9番目の顔真卿の帰還までを「第一章・愛の伝説」とし、20番目の天の川叙情までを「第二章・若返りの泉」とし、32番目の倩女の話までを「第三章・永遠の女性」とし、46番目の菊花の契りまでを「第四章・妖怪たちの隠れ里」とし、53番目の牡丹燈籠までを「第五章・蓬莱幻想」としています。
第一章の1番目は南洋諸島の話で、2番目と3番目は北洋、4番目は中近東、5番目はインド、6番目と7番目と8番目と9番目は中国の話です。跳んで第三章の32番目の「倩女の話」も中国の話です。「倩女の話」を除き第二章から第五章は日本の話です。第二章は日本の昔話でしょうか。18番目の話の「『あにさん、寒かろう』『おまえ、寒かろう』」は耳に残ります。第三章から第五章までは、「怪談・奇談」講談社学術文庫と同じ話が多いです。
第三章の28番目の「振り袖伝説」は他の書では「振袖」と題され、第4章の35番目の「かけひき」は他の書では「策略」と題され、42番目の「僧興義の話」は「夢応の鯉魚」と題され、46番目の「菊花の契り」は「菊花の約」とか「守られた約束」と題され、第5章の53番目の「牡丹燈籠」は「宿世の恋」とか「悪因縁」と題されてました。
他の二つの書になく本書ちくま文庫だけに掲載されていたのは、第一章と第二章の1番目から20番目の20の話、前述した第三章の32番目の話、そして第五章の47番目と48番目の話でした。そして八雲の妻節子の「思い出の記」も本書だけに掲載されており、内容は特筆すべきものです。残念ながら説明が本書でなく「怪談・奇談」講談社学術文庫の巻末解説328頁にありました。「『思ひ出の記』は、節子夫人が口頭で語ったことを、彼女の従兄弟で、後に古文書の調査資料を数多くハーンに提供、協力した光成という人が筆記したものだといわれるが、」ということです。この「思い出の記」を読むと、八雲の人となり妻の想いがわかりとても興味深い。『この痛みも、もう大きいの、参りますならば、多分私、死にましょう。そのあとで、私死にますとも、泣く、決していけません。』そして「小泉八雲年譜」と合わせ読むと、著者八雲は五十四歳に狭心症で亡くなっています。日本人の妻節子との間に設けた四人の子(12歳の長男を筆頭に、7歳の次男、5歳の三男そして父が亡くなった前年に生まれた長女)はその後どうやって過ごしたのだろうと気にかかって仕方がありません。「小泉八雲集」新潮文庫の年譜によれば妻節子は28年後に亡くなったそうです。「思い出の記」を読まなければこういった感想は起こらなかったはずです。
2021年5月23日に日本でレビュー済み
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趣味の朗読用に購入。朗読には20分以内に読める短篇が望ましいのですが、ちょうど良い長さの面白い話が多く集められていて良かったです。小泉節子さんが残された、八雲との「思い出の記」も興味深かったです。
2022年6月29日に日本でレビュー済み
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訳文が、日本語としてわかりやすく美しいと思いました。