この作品はエドガー・アラン・ポーの原作でありながら、原作の古典的な要素を一切廃し、バウハウス派の近代建築で作られた館と螺旋階段を中心においた地下室の美術が独特の雰囲気を醸し出している。美術出身のエドガー・G・ウルマーの傑作だ。
エドガー・アラン・ポーの原作の映像化は、古城や古い館がこれまでの定番であったが、それを覆し近代的な建物をメインに置き、古い要塞の螺旋階段で近代建築と冷たい地下室とのギャップを表しているところが素晴らしい。
ストーリーもポーの原作を一切無視して、黒猫に対する異常な嫌悪感を持つヴィトス(ベラ・ルゴシ)が、戦争中に裏切り自分の妻と娘を奪ったポールツィグ(ボリス・カーロフ)への復讐とそれに巻き込まれた新婚夫婦のミステリーになっている(館へ新婚夫婦が訪れる雨のシーンは「ロッキーホラーショー」にも受け継がれている)。
終始、高い緊張感で余分な展開を一切排除した展開は、低予算映画の帝王でもあるウルマー監督の真骨頂だ。
近代建築の館も恐怖体験をする新婚夫婦には異様な館に仕上がっており、黒猫の姿との融合も違和感なくホラーとして十分な雰囲気を醸し出している。
ストーリーはポーの原作とは異なるが、その恐怖感はポーを継承しているところも良い。
60分強という時間と低予算という制約で、ここまで面白い作品ができるのだから、今の監督たちも見習うべきところが多いと思う。そんな、ウルマーの傑作がDVD化は非常にうれしい限りだ。