夏には「平家物語」がふさわしい、といつの頃ころか思うようになったか。6月28日の毎日新聞書評に紹介された、林望「謹訳平家物語[一]」は歌の調子をとても上手にとらえた優れた現代語訳になっています。
「彼らの涙がどんなに塩辛いかも理解する。・・・空想は彼らを泣かすことはできない。もしや夢ではあるまいかというさまざまな惑いは、涙とともに流れ去り、・・・とともに自然が目の前に現れる。・・平家のあの冒頭の哀調が多くの人々を誤らせた。作者の思想なり人生観なりが、ここにあると信じ込んだためである。・・・平家の作者は優れた思想家ではないというところが肝心なので、・・・平家の哀調、惑わしい言葉だ。このシンフォニックは短調で書かれている。一種の哀調は、この作の驚くべき純粋さから来るのであって、仏教思想というものから来るのではない。「平家物語」:小林秀雄)」と、書いたのは戦時中の小林秀雄だ。
当時、国体というイデオロギ-に飲み込まれている日本を痛切に感じながら、自らも戦争初期には従軍し部分的には帝国に従い、そしてこの時期、目をつむり現実をみようとしない日本の自閉性や空想を離れて、なぜ、我々は純粋さに回帰できないか、とこの文章で問うた。
だから、小林秀雄側にも、社会に流されるだけの空想や希望や同情やロマンを侮蔑し、人間の乾いた知性と現実直視こそ尊重すべき、という薄いベ-ルがかかっている。
林望の現代語訳から浮かびあがる、「平家物語」では、男も女もみなよく泣く。その涙の量は堰をきり、都を浸すようだ。と、同時にやはりこの上ない哀切な物語が、何の感傷もなく鳴り響いてもいる。その口調は、もちろん仏教思想というものではないが、とはいえ痛切な永遠を感じさせる詩魂は、読むものの心に直接働きかけ、哀愁がつのるのである。次の、後白河法皇の故なき鳥羽への軟禁について平家の作者が語る場面はどうか。(原文から)
「法皇は城南の離宮にして、冬も半ば過ごさせ給へば、射山(やざん)の嵐の音のみはげしくて、寒庭(かんてい)の月のぞさやけき。庭には雪降り積れども、跡踏み付くる人もなく、池にはつらら閉ぢ重ねて、群れ居し鳥も見えざりけり。大寺(おおでら)の鐘の声、遺愛寺の聞きを驚かし、西山(にしやま)の雪の色、香炉峰(こうろほう)の望みをもよほす。夜(よる)霜に寒けき砧(きぬた)の響き、かすかに御枕に伝ひ、暁(あかつき)氷をきしる車の跡、はるかの門前に横たはれり。巷(ちまた)を過ぐる行人(こうじん)征馬の忙がはしげなる気色(けしき)、うき世を渡る有様も、思し召し知られてあはれなり。宮門を守る蛮夷(ばんい)の、夜昼(よるひる)警衛を勤むるも、
「先の世の如何(いか)なる契(ちぎ)りにて、今縁(えん)を結ぶらん」
と、仰せなりけるぞかたじけなき。およそ物に触れ事に随(したが)って御心を傷ましめずといふ事なし。さるままには、かの折々の御遊覧、所々(ところどころ)の御参詣(ごさんけい)、御賀(おんが)のめでたかりし事ども、思し召し続けて、懐旧の御涙押さへ難し。年去り年来って、治承も四年になりにけり。(平家物語 巻三 城南之離宮)」
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謹訳 平家物語 一 単行本 – 2015/5/1
林 望
(著)
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- 本の長さ317ページ
- 言語日本語
- 出版社祥伝社
- 発売日2015/5/1
- ISBN-10439661523X
- ISBN-13978-4396615239
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登録情報
- 出版社 : 祥伝社 (2015/5/1)
- 発売日 : 2015/5/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 317ページ
- ISBN-10 : 439661523X
- ISBN-13 : 978-4396615239
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著者について
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1949年東京生まれ。作家・書誌学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国 文学。『イギリスはおいしい』(文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(ケンブリッジ大学出版)で国際交流 奨励賞、『林望のイギリス観察辞典』(平凡社)で講談社エッセイ賞を受賞。エッセイ、小説のほか、歌曲の詩作、能評論等も多数手がける(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 謹訳 源氏物語 三 (ISBN-13: 978-4396613662 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2015年9月15日に日本でレビュー済み
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2016年5月17日に日本でレビュー済み
平家物語が林 望先生の謹訳によって出たということで期待して読みました。さすがと思うのは、やはり平家物語の本情をいささかも壊すことなく、かつ平易に叙されているところに、源氏とは異なる読みがたり物として卓越していると思います。
平家は琵琶法師の語りによって哀愁ある物語ですが、ここにまた現代の琵琶法師の語り部が現れたのだはなかろうかと嬉しいことでした。このあとの巻の展開がますます楽しみです。
平家は琵琶法師の語りによって哀愁ある物語ですが、ここにまた現代の琵琶法師の語り部が現れたのだはなかろうかと嬉しいことでした。このあとの巻の展開がますます楽しみです。
2021年11月8日に日本でレビュー済み
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早く届けていただきました。また可愛いしおりをありがとうございました。
2020年9月19日に日本でレビュー済み
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琵琶法師による語りで広まったという物語の性質を考えると正しいのでしょうが、やはり、語尾が統一されていない点が読んでいて引っかかります。
あと、注釈等が入るわけでもないのなら下部の大きな余白など取らず、いま少し余裕を持って文字を配列していただきたかったです。
本文の面積は文庫本サイズではないでしょうか。
あと、注釈等が入るわけでもないのなら下部の大きな余白など取らず、いま少し余裕を持って文字を配列していただきたかったです。
本文の面積は文庫本サイズではないでしょうか。
2015年9月6日に日本でレビュー済み
「謹訳 源氏物語」がすいすいと読め、しかも面白かったので平家にも手を出したわけだが、なにしろ位や司が
いつも付いてまわりその種類の多さといったら!そちらに気を取られていると物語自体のイメージがわかず、
スピード感に欠ける。これでは次巻が出るまで内容を覚えている自信が私にはない。そもそも内容が頭に入って
きにくい。語尾が統一されていないのも読んでいて気になる。
それでも美しい「平家物語」を読んでみたい!という人にはいいかも。
いつも付いてまわりその種類の多さといったら!そちらに気を取られていると物語自体のイメージがわかず、
スピード感に欠ける。これでは次巻が出るまで内容を覚えている自信が私にはない。そもそも内容が頭に入って
きにくい。語尾が統一されていないのも読んでいて気になる。
それでも美しい「平家物語」を読んでみたい!という人にはいいかも。
2019年10月15日に日本でレビュー済み
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古文ではとても読めない平家物語を現代文で読めるのがうれしい。日本のすぐれた中世の文学作品を現代の日本語で読めるのは日本ならではのこと。