武経七書 司馬法から学ぶ!司馬穰苴の兵法

『司馬法』は「武経七書」のひとつで、古くから伝わる司馬の兵法を研究させ、それに司馬穰苴の兵法を付け加えて『司馬穰苴の兵法』と名付けたものとされています。

『漢書』芸文志では、経書のうち礼類に「軍禮司馬法百五十五篇」とあり、『隋書』経籍志では、礼類に、漢代初めに河間献王が司馬穣苴兵法一百五十五篇を得た、との記述はあるものの、ほとんど散逸してしまい、現在は仁本・天子之義・定爵・厳位・用衆の5篇しか残っていません。

「攻其國愛其民、攻之可也、以戰止戰、雖戰可也」とあり、「攻めてもその国の民を愛するなら攻めてもいいし、戦争をすることで戦争が止むのならば戦争を起こしてもいい」などといったことが書かれていますが、戦争を美化する書ではなく、どちらかというと戦争に否定的な兵書です。

以下、現行本・三巻五篇の概要です。(篇名はいずれも冒頭の文より付けられているとのこと)

仁本篇
 戦争にも礼をもって戦うことを述べています。

天子之義篇
 軍における教化の重要性を述べています。

定爵篇
 戦いの準備のために組織の結束を強くすることを述べています。

厳位篇
 戦場での戦い方、将軍の在り方について述べています。

用衆篇
 衆と寡の使い方などを述べています。

若干他の兵書とは異なり、軍礼制度、陣法・訓練・爵位・賞罰の規定などが記されています。
戦術に関しては『孫子』に共通する部分も多いものの、政治について説いた部分は儒教の影響を強く受けているようです。

[amazonjs asin=”483342097X” locale=”JP” title=”新装版司馬法・尉繚子・李衛公問対 (全訳「武経七書」)”]

以下参考までに、現代語訳にて一部抜粋です。

【仁本篇】

古は仁をもって政治の要諦とし、義をもって国を治めた。これを正という。正で治められない時は、やむなく権を用いたのである。
人を殺して万人の命が守れるならば、人を殺してもよい。他国を攻めてその国の民をいつくしむことができるなら、攻めてもよい。 戦うことによって戦いをやめさせることができるなら、戦を起してもよい。権とはこのようなことを言うのである。
ふだんからしっかりと統治して民の支持を得ていれば、いざというとき民は喜んで国のために勇んで戦うようになる。

軍事は農閑期に行なって人民が疫病に苦しんでいるときを避けます。これはわが国民を愛するからです。敵が喪に服していたり災害に苦しんでいるときを避けます。これは敵国民を愛するからです。冬や夏に挙兵しないのは双方の民を愛するからです。
大国だからと戦いを好めば必ず国を滅ぼします。平和だからと軍備を忘れれば危険にさらされます。天下を平定しても天子は春に兵を集めて秋に演習を行ない、諸侯も春は軍備を整え秋は演習を行なうのは戦いを忘れないからです。

6つの徳を人民に教える。
【礼】敗走する敵を百歩以上は追撃せず、撤退する敵も三舎までしか追わない
【仁】戦闘不能になった敵にはトドメを刺さず、傷ついた敵兵には情けをかける
【信】敵が陣形を整えてから進軍の太鼓を打ち鳴らす
【義】大義だけを争い、利益は争わない
【勇】降伏してきた敵を快く許す
【智】開戦しても終わらせる潮時をわきまえる
 教練のときこの6つの徳を人民の守るべき規範としたのが古の軍政です。

古代の聖人は、天の道に則り、その土地に適した施策を行い、徳のある人物を官吏に抜擢した。

下って賢王の時代になると、礼楽や法律、制度を整えて民を教育した。さらに五刑を定め、軍備を整え、不義を討った。
王自ら各地を視察し、諸侯を会同して統治の徹底をはかりました。
 諸侯の中で王の命令に従わず、人の道にも背き、天の時にも逆らい、功臣まで遠ざけるような国が出てきたらどうするか。まずその旨を天下に布告して罪を明らかにし、天神日月星辰に告げ、地・四海・山川の神に祈りを捧げ、先王の霊に報告したのです。その後で宰相が諸侯の軍を召して「その国が道に外れた行ないをした。よってこれを征伐する。何年何月何日を期して軍を差し向け、天子のもとに会同してその国の乱れを正せ」と命じました。
さらに宰相は百官を率いて敵国で以下の軍令を布告します。「
一.神の杜を荒らさない
二.狩りをしない
三.橋や道路を破壊しない
四.民家を焼き払わない
五.樹木を伐採しない
六.物資を略奪しない
さらに老人やこどもは傷つけずに丁重に家に帰すこと。壮丁に出会っても手向かってこなければ敵とみなさないこと。敵を傷つけたら手当てをしたうえで家に帰すこと」
かくして罪ある国を征伐したなら、王と諸侯はその政治を正し、賢者を登用して明君を立て、官職を正常に戻したのです。

王者や覇者が諸侯を統治するのは次の6つのことを留意しました。
一.国境を定めて各国の領土を確定させる
二.法令を発して順守させる
三.礼と信をもって心服させる
四.恵まれない国に財政支援をする
五.人材を派遣して連携を密にする
六.軍事力で威服させる
このように共通の利害関係を作り上げ、小国を庇護し大国を尊重して諸侯を融和させたのです。

覇者は諸侯を集めて、次の9つの事柄を取り決めた。
一、弱小国を侵略した場合は、領土を削る
一、賢人を殺し、民を迫害した場合は、討伐する
一、国内を荒廃させ、他国を侵略した場合は、その諸侯を幽閉する
一、田畑を荒し、民の離散を招いた場合は、領土を削る
一、険阻な地形を頼んで服従しない場合は、侵略する
一、親族を殺した場合は、その罪を糾弾する
一、主君を放逐したり弑殺した場合は、誅殺する
一、禁令を破って政治を乱した場合は、諸国との往来を禁ずる
一、国の内外で騒動を起こし、人としてあるまじき行為をした場合は、これを滅ぼす

【天子之義篇】

古は政治の儀礼をそのまま軍に適用することはしなかったし、逆に軍の儀礼をそのまま政治に適用することはしなかった。 それぞれの徳義を互いに踏み外すことはなかった。
古は、敗走する狄を深追いすることはなかったし、撤退する敵に追いすがることもなかった。
「礼」によって自軍の態勢を固め、「仁」によって勝利を確実なものとした。勝利を収めた後には、また必ず「礼」と「仁」とをもって教化に努めた。 君子はそれほど教化を重視したのである。

古代王朝が軍事行動を起こす時は次のようであった。
舜は、まず国内に布告し、民が命令どおり実行してくれることを望んだ。
夏王朝は、軍中で誓いを立て、民が戦いに臨む心積もりをするよう求めた。
商王朝は、軍門の外で誓いを立て、民の戦意を高揚してから戦いに臨もうとした。
周王朝は、戦いの直前になってから誓いを立てた。民が必死になって戦うよう求めた。
夏王朝は「徳」を行ったので、武力を使う必要がなかった。商王朝は「義」を行ったので、初めて武力を使用した。周王朝は「力」に基づく政治を行ったので、 あらゆる武器を使わなくてはならなくなった。
このように三代は、それぞれやり方は違っていたが、民への徳を明らかにした点では同じであった。

武器は、さまざまな用途のものを取り混ぜて使わなければ実践の役に立たない。

軍を統率する時、上からの締め付けが厳しすぎれば、兵士は萎縮する。締め付けがゆるめば、統制がとれなくなる。政治では、官吏が民を押さえつけると、 民はそれぞれの分に安んずることができなくなり、締め付けがゆるめば、民は官吏をあなどるようになるだろう。

軍においては、節度を保った動きを重視する。動きに節度があれば、兵士も余裕を持って戦うことができる。

政治では礼が重視され、軍中では法が重視されたが、両者は表裏の関係にあり、文と武とは左右の手のように関連しあっているのである。

舜のときには、賞も罰も用いなくてもうまく治まった。それだけ徳が浸透していたのである。
夏王朝のときには、賞だけを与えて罰は加えなかった。教化がうまくいっていたからである。
商王朝のときには、罰だけを加えて賞は与えなかった。締め付けを厳しくしたのである。
周王朝になると、賞罰ともに用いた。それだけ徳が衰えてしまったのである。

古は、辺境の守備隊で一年間任務についた者は、その後三年間は徴用されなかった。民の労苦を考えてのことである。

【定爵篇】

戦いに際しては、次のことに留意すること。
一.軍での身分を明確にする
二.賞罰の対象となる功罪を明確にする
三.遊説の士から情報を収集する
四.王の命令を徹底させる
五.部下の意見に耳を傾ける
六.有能な人材を登用する
七.様々な意見を検討して実情を把握する
八.疑問や疑惑を解消する
九.力を蓄えて技量を発揮させる
十.民心の動向に従う
十一.多くの兵を結束させて地の利を生かす
十二.混乱を治めて遅れがちなものを奮起させる
十三.正道を踏み外さないよう羞恥心を植えつける
十四.軍法を簡素化し刑罰も最小限にとどめる
小罪といえども誅殺すればあえて大罪を犯す者もいなくなる。

【天順】天の時を見極める
【財阜】敵地から物資を調達する
【懌衆】進んで命令に従わせる
【利地】険阻な地形に布陣する
【右兵】弓矢で敵を防ぎ、殳矛で守り、戈戟で援護する
これらを心がけなければならない。これを”五慮”という。

およそ戦いは、権を駆使して勝利を収めるものである。戦闘では勇猛に戦い、布陣の際には隙を見せてはならない。

戦いには3つの条件がある。
【天】好機と見れば敵に察知されないように行動を起こす
【財】人民に最低限の生活を保障して喜んで戦いに赴かせる
【善】じゅうぶんな訓練を施し、万端の準備を整えている
 この条件を満たしたうえで、それぞれが自分の任務に励むなら、労せずして目的を達せられます。
【大軍】数が多いだけでなく軽車・軽兵・弓矢によってしっかりと守られている
【固陣】一見静かに構えながら内に激しい力を秘めている
【多力】進撃するも後退するも自在
【煩陣】間際になっても慌てない
【堪物】役割分担が明確で統制がとれている
【簡治】どんな事態でも柔軟に対応する
 これらのことはふだんの準備があってこそ可能になります。

一.自軍の兵力を考えて地の利を占める
二.敵の情況に対応して陣を布く
三.攻めるにも戦うにも守るにも進むにも退くにもとどまるにも、つねに隊列を乱さない
四.戦車と歩兵は密接に協力しあう。
 これを「戦参」という。

一.兵士が服従しない
二.不信感が漂う
三.和が乱れる
四.怠惰がはびこる
五.みな疑心暗鬼
六.面倒なことを嫌がる
七.恐怖にとらわれる
八.上下の意志が疎通しない
九.思い悩む
一〇.鬱屈する
一一.雑然とする
一二.自分勝手なことをする
一三.規律が緩む
一四.緊張感に欠ける。
 これを「戦患」という。

一.敵を侮って慢心している
二.敵に必要以上の恐怖心を抱く
三.軍中からは不満の声がやまない
四.兵士は敵を恐れてふさぎ込む
五.決断しても後悔ばかりしている
 これを「毀折」という。

一.大と小
二.堅と柔
三.参と伍(集中と分散)
四.衆と寡
 これらをうまく使い分けることが「戦権」である。

戦いは。
一.敵が遠くにいるなら間諜を放って情報収集する
二.間近に迫ったらよく観察する
三.戦機を逃さない
四.物資を有効に使う
五.信賞必罰を貴ぶ
六.疑心暗鬼にならない
七.大義で戦いを興す
八.仕事を成し遂げるには時節を選ぶ
九.恩恵を与えて人を使う
一〇.敵を前にしても静かに構える
一一.混乱しても余裕をもって対処する。
一二.危難にさらされようと兵卒のことを忘れない

 国内にあっては和をもって恩恵を施し信頼をかちとって人民から懐かれる。
 軍中にあっては法をもって寛大でありながら武勇を重んじて威令を貫徹させる。
 刃を交えるときは状況判断をもって素早い決断で俊敏に行動して兵士たちから信頼される。

布陣や行軍に際しては間隔を保つ必要があるが、戦闘に突入すれば密集させて兵を駆使して戦います。
一.ふだんから兵士に教育していれば軍はまとまって威令が隅々まで浸透します。
二.将兵が「義(大義)」を守れば奮起します。
三.目標が成果をあげれば兵士は心服して軍の統制が保たれます。
四.自軍の旗印(方針)が一目でわかれば誰の目にも間違えようがありません。
五.目標が事前に定まっていれば進退に迷いが生じない。
六.敵が目前に迫っても目標を決めかねているような指揮官は事情聴取したうえで処罰する。
 「名(名分)」に背かないこと。その旗(方針)を変えないこと。

物事は、善であれば長持ちし、聖人の足跡に従っていれば順調にいき、制令が明確に示されていれば人民は奮起して力を発揮します。
 怪しげなお告げの類を絶つには2つの方法があります。
【義】「信」を基本としながら武力行使も辞さない。基礎を固めて天下を一つにまとめるなら喜ばない者はいない。これなら人々の能力をうまく発揮させることができる。
【権】敵が慢心していればさらに増長させ、その好むものを奪ったうえで、外からは軍をもって攻め、内からは間者を用いて内応させるのです。

一.【人】人材を登用する
二.【正】正道を外さない
三.【辞】発言に気をつける
四.【巧】精巧な準備をする
五.【火】火を操る
六.【水】水を占める
七.【兵】兵を挙げる
これを「七政」という。

【栄】栄誉を授ける
【利】爵禄を授ける
【恥】恥辱を与える
【死】死を与える
これを「四守」という。

穏やかな顔つきでありながら威厳にあふれた態度で、人々の考えを改めさせます。
「仁」があれば人から親しまれますが「信」も兼ね備えなければ身の破滅を招きます。
人材を活用し、正道に則り、発言を慎重にして、時宜を見計らって火をかけるのです。

戦いですべきことは、
一.兵士の士気を高めてから作戦命令を下す。
二.柔らかい物腰で接して言葉ですべきことを教え導く。
三.恐怖心を取り除いてやって適材適所に起用する。
四.敵地に侵攻したら占領行政に当たる者を任命して治めさせる。
これを「戦法」という。

兵士の規範は誰にでもできるものでなければなりません。
一.全軍の中から規範となるべき兵士を選び出し、彼を見習うようにさせる
二.それでも実行されないなら将自ら率先して手本を示す
三.なんとか実行されるようになったら次は忘れないようにしっかりと憶えさせる
これを何回も繰り返して規範とすれば無理なく従わせることができます。
これを「法」という。

軍の混乱を招かないための方法には以下があります。
一.【仁】思いやりをもって臨む
二.【信】嘘をつかない
三.【直】一度決めた方針を貫く
四.【一】全軍を一つに集める
五.【義】なすべきことをする
六.【変】臨機応変に対処する
七.【専】権限を一身に集中させる

軍法を立てるときには、以下を行います。。
一.【受】周りの意見に耳を傾ける
二.【法】軍法を遵守する
三.【立】やたら改変しない
四.【疾】迅速に執行する
五.【服を御す】身分に応じて服装を定める
六.【色を等す】服装の色もこれに準じる
七.【百官宜しく淫服なかるべく】規定以外の服装は許さない

軍法を行使するときには、以下が重要です。
【専】将は軍法を執行する権限を手放さない。
【法】将兵ともに法を恐れる。軍ではつまらぬ意見に耳を貸さず目先の利益に飛びついてはならない。
【道】日々戦果を積み上げてこちらの意図を察知されない。

戦いには、以下が重要です。
【専】正道から外れたら自らの権限を行使して改めさせる
【法】従わなければ軍法に照らして処断する
【一】不信感があればぬぐい去る。
 もしやる気がないのであれば奮起させ、疑念があれば取り除いてやる。部下が将を信頼しない場合でも一度下した命令は断行する。

これが古来から行なわれてきた政である。

【厳位篇】

戦いですべきことは以下です。
一.階級を明確にする
一.軍令を厳しく適用する
一.戦力を素早く展開する
一.兵士を落ち着かせる
一.全軍の心を一つにまとめる
戦いですべきことは以下です。
一.戦いの意義を周知させる
一.部隊を編成する
一.行進する順番を決める
一.隊列を整える
一.役目どおりに動いているか確認する
一.立って進むときは頭を下げ、座ったまま進むときは膝を使う
一.敵を恐れているなら密集させ、危機に陥ったときは腰を下げさせる
一.遠方にいるときはよく観察させれば恐怖心を取り除ける
一.接近したときは敵の姿を見せなければ動揺することもない
一.階級順に右から左へ並ばせる
一.武装して座らせてから誓いを立て、おもむろに配置へつける
一.下級の兵士に至るまで役割を決め、適性に応じて武装させる
一.馬をいななかせときの声をあげても怖じけづいているときは密集させる
一.ひざまずいてから座らせ顔を伏せさせたのち膝行させて穏やかに誓わせる
一.鼓を打ち鳴らして進ませ、金鐸を鳴らして止まらせる
一.音を立てないよう甲冑に枚を噛ませておく
一.座らせて食事し、膝行して退席する
一.軍令に反した者を誅殺するときは目を背けることを禁じ、兵士たちにときの声をあげさせてから処刑する。ただし、深く反省しているなら殺してはならない。穏やかな表情で許してやる理由を説明したうえで元の職に就けてやる。

軍では、
一.訓告は半日以内に全員へ徹底させ、個人ならその場で徹底させる
一.食事は全員揃って摂る
一.敵に疑いや迷いが生じているなら速やかに討つべし

戦いでは、
一.戦力を蓄えて長期戦に備え、士気を充実させて勝つ
一.強い決意で危難を戦い抜いて勝つ
一.断固たる決意と沸き立つ士気で勝つ
一.甲冑を硬くして武器をもって勝つ

戦車は密集させ、歩兵は座り込ませ、甲冑は分厚くして守りを固める。武器を軽快に振り抜いて勝つ

一.勝ち急ぐと目の前しか見えなくなる
二.恐怖心を抱くと敵の恐ろしさばかり目に付く
二つをうまく噛みあわせて情況に応じて使い分けるのです。

同じ武装の敵と戦ったのでは勝ち目が薄く、軽装備で重装備の敵と戦ったのではむざむざ敗れるようなもの。重装備の軍で軽装備の敵と遭遇したらすかさず攻撃することです。だから戦いでは軽装備と重装備を混成させるのです。

一.宿営するときは武装の手入れをする
一.行軍の際は用心深く隊列を整える
一.戦闘中は進むかとどまるかを慎重に見極める

戦いは、
一.命を貴べば兵士は満足し、陣頭指揮をとれば命令に服する
一.命令をしばしば変更すれば兵士に軽んじられ、余裕を持って命令すれば兵士は落ち着く
一.鼓を軽快に鳴らして軽やかに進み、ゆったりと鳴らして落ち着かせる
一.服装が雑だと兵士に軽んじられ、整っていれば兵士も規律を正す

馬や戦車が強固で武器防具が使いやすければ軽装備であっても自信を持てる

一.将が何もしなければ何も獲られない
一.将が専横していれば死ぬ確率が高くなる
一.将が生き残ろうとすれば迷いが生じる
一.将が死ぬ覚悟を決めれば勝ち残ることはできない

人は、
一.愛情のために死ぬもの
一.怒りのために死ぬもの
一.権威を恐れて死ぬもの
一.義を通して死ぬもの
一.利益のために死ぬもの

戦いですべきことは、兵士に死ぬことを忘れさせるよう教練し、いざというときに命を投げ出しすようにすることです。

戦いは、
一.勝機があれば戦う
一.天に従って戦う
一.民心に沿って戦う
戦いは、
一.全軍への指示は三日以内に徹底させる
一.部隊への指示は半日以内に徹底させる
一.個人への指示はその場で設定させる
最善は「正」に則り、次善は法に則ること。謀略を駆使して狙いを秘匿し、情況に応じて「権」を用いて戦う。
全軍を勝利に導くのは将一人の判断においてのみです。

鼓は
【旌旗】旗幟を操る
【車】戦車を操る
【馬】騎馬を操る
【徒】歩兵を操る
【兵】武器を構える
【首】頭を操る
【足】足を操る
この七つを使い分けるのです。

戦いは、すでに装備が整っていればそれ以上持たせてはならない。重装備の兵は余力を残すように行動する。力が尽きていては危機に陥ります。

戦いは、陣形自体は難しくない。兵士たちを配置するのが難しい。敵に応じて変化させるはさらに難しい。何事も知ることはたやすいが実行するとなると難しくなります。

人間の気質は地方によって異なり、州によっても異なります。それを教化して風俗が作られていくのだが、その風俗も州ごとに異なります。風俗をまとめるのです。

衆寡は勝ちもするが負けもします。
一.武器の使い方がわからない
一.甲冑の堅固さがわからない
一.戦車の強度がわからない
一.騎馬の性質がわからない
一.兵数が多いのかわからない
これでは戦う準備が整っていません。

戦いは
一.勝てぱ兵士と手柄を分かち合う
一.再度戦うときも賞罰を徹底させる
一.敗北したら自らがすべての責任をとる
一.陣頭指揮をとる
一.同じ戦術をとらない
 勝つにせよ敗れるにせよ、この原則から外れてはなりません。
これが「正しくとるべきこと」です。

人民は、
【仁】生活に配慮する
【義】戦いを興す
【智】判断する
【勇】奮闘する
【信】権限を集中する
【利】推し進める
【功】勝利を目指す
心は仁に適い、行動は義に適うこと。どんな事態にも対処するには智を持ち、強大な敵と戦うには勇を持ち、長期戦に堪えるには信を持つことです。
将が歩み寄れば人々も進んで従い、正道を踏み外したと指摘されたら素直に過ちを認め、すぐれた人材を登用すれば人々が向上心を持つようになります。

戦いは、
一.勢いを失った敵を撃ち、鳴りを潜めている敵は避ける
一.疲れている敵を撃ち、余裕のある敵は避ける
一.怯えた敵を撃ち、警戒する敵を避ける
これが古よりの戦い方です。

【用衆篇】

戦いですべきことは、
一.少数なら団結して覚悟を決め、小回りを活かして自由に進退する。少数で大軍と遭遇して混乱したら策をめぐらせて切り抜けること。敵が大軍の場合はよく観察して裏を狙う。
一.大軍なら統制をとって正面から決戦をして挑んで進むかとどまるかのみ命令する。大軍で少数と遭遇したら遠巻きに包囲して必ず敵の逃げ道をあけておくか、兵力を分散して交互に繰り返し攻撃して休む暇を与えないこと。敵が少数でも団結していれば深追いせずに逃げ道をあけておく。
敵が有利な場所に陣どっていればわざと旗幟を捨てて敗走を装い、追撃してきた敵を迎え撃つ。

戦いは、
一.風を背にする
一.高いところを背か右にする
一.険しいところを左にする
一.沼沢や足場の悪いところは速やかに通過する
一.切り立った山場に布陣しない
戦いは、
一.布陣して自軍の状態を確認する
一.敵情に応じて動く
一.敵が待ち受けているなら攻撃を控えて出方をうかがう
一.進撃してきたら守りを固めて反撃のチャンスをうかがう
戦いは、
【変】少数と大軍を繰り出してみて敵の対応を観察する
【固】進撃と退却を繰り返して敵の守りが固いか観察する
【慴】敵を窮地に追い込んで敵の動揺ぶりを観察する
【怠】じっと鳴りを潜めて敵の緊張が持続するか観察する
【疑】敵を引きずりだして敵に疑いや迷いが生じるか観察する
【治】奇襲をかけてみて敵の規律が保たれるか観察する
疑いや迷いにつけ込み、混乱に乗じて襲いかかり、士気をくじいてかき乱す。反撃の気配を見せたらすぐさまたたきつぶして策をめぐらす余地を与えず、恐怖心に付け込むのです。

敗走する敵には追撃の手を緩めてはならない。ただし路上で立ち止まっているようなら伏兵や奇策を疑うこと。
敵の都に接近したら必ず退路を確保しておくこと。

戦いは、
一.敵より先に動けば疲れが募り、後れて動けば恐怖にかられる。
一.休めば士気が鈍り、休まなければ疲れが募る、休みすぎると恐怖心が生じてくる。
一.戦場に赴けば故郷への便りを禁じて、肉親の情に引かれるのを絶つ。
一.優秀な兵士を抜擢して序列をつけ、いっそう勇敢に戦わせる。
一.荷駄を捨て余分な物資を持たせず、決死の覚悟を決めさせる。
これが古よりの戦い方です。